インプロとは即興演劇のことです。普通の演劇には台本がありますが、インプロには台本がありません。また、あらすじも決まっていません。本当に先が分からない中で、プレイヤーたちはお互いを受け入れあいインスパイアしあいながらストーリーを生み出していきます。
インプロはもともとは「即興」を意味する「Improvisation(インプロヴィゼーション)」の略であり、即興演劇にかぎらず即興音楽や即興ダンスを表すときにも用いられる言葉です。しかしインプロ(Impro/Improv)と略されるときの多くは即興演劇を表しています。
現在世界中で行われているインプロに大きな影響を与えているのが「インプロの父」と呼ばれるキース・ジョンストン(Keith Johnstone)です。キース・ジョンストンは俳優が抱えるさまざまな問題を解決するために数多くのインプロゲームを開発しました。また、インプロをショーとして見せるためのフォーマットも開発しました。
インプロは日本ではまだまだマイナーなジャンルですが、欧米ではよく知られており、毎日のようにインプロショーが行われています。また、インプロ専用の劇場も世界各地にあります。ここ日本でも急速にインプロチームやインプロショーの数は増えています。
インプロはもともとは俳優訓練として行われていましたが、現在ではスピーチやコーチングなどのように一般の方も学んでいます。アメリカではGoogleやNetflixといった企業もインプロを企業研修として取り入れたり、MBAのプログラムにも組み込まれています。近年日本においてもその教育的な価値が注目されています。
インプロを学んだことによる変化例
- 人前で話すことが怖くなくなった(社会人・40代)
- 子供とのコミュニケーションがスムーズになった(主婦・50代)
- 部下に対して怒らなくなった(経営者・30代)
- 参加者の意見を活かせるようになった(ファシリテーター・40代)
- 過去を引きずらず、「今ここ」にいやすくなった(コーチ・30代)
- エチュードの苦手意識が無くなった(俳優・20代)
- 演じることの楽しさを思い出した(声優・30代)
ご興味ある方は、まずは体験会へどうぞ
- 企業研修については「インプロによる企業研修のご案内」をご覧ください。
- インプロアカデミー代表の内海が原作を務めたインプロ漫画『プレイフル』はこちら。
Concept
「大人は萎縮した子供」
キース・ジョンストンのインプロの基本的な考え方は「大人は萎縮した子供」です。
多くの教師は子供を未成熟な大人と考える。もし、大人を萎縮した子供と考えれば、もっとよく、もっと「敬意を払って」教えることができるかもしれない。多くの「うまく適応した」大人は、辛辣で、創造性がなく、怯えていて、想像力に乏しく、敵意に満ちあふれた人である。彼らを、このように生まれて必然的結果としてこうなったと考えるよりも、教育やしつけで傷つけられた人と考えたほうがいいかもしれない。
Keith Johnstone
小さな子供は自然と即興で歌ったり、踊ったり、演じたりしています。しかし大人になるにつれて「人からどう思われるだろう」という評価への恐れや、「うまくいかなかったらどうしよう」という失敗への恐れが出てきて、人は即興できなくなっていきます。
逆に言えば、これらの恐れを手放すことができれば、人は再び即興することができます。そしてそこに自由な表現やコミュニケーションがあります。したがって、インプロの学びの基本は「足りないものを足す」ものではなく、「既にあるものを引き出す」ものです。
よくある誤解と大事にしていること
インプロ(即興)は次のようなものだと思われていることがあります。
- 面白いことを言うもの
- 目立とうとするもの
- うまいことやるもの
しかし、即興をこのように行おうとすると怖くなってしまいます。例えば、これから人前に出る人に対して「面白いこと言ってきて」「目立ってきて」「うまいことやってきて」と言って押し出したとしたら、その人は緊張で固まってしまい、本来持っている能力や魅力を発揮できなくなってしまうでしょう。
そこでインプロでは、これらの反対のことを大事にしています。
- 面白いことを言うもの→自然に出てきてものを大事にしよう(自発性)
- 目立とうとするもの→パートナーといい時間を過ごそう(利他性)
- うまいことやるもの→思い通りにいかないことを楽しもう(挑戦性)
インプロではこのようなマインドを身につけていくことで、即興をより自由に、魅力的に、楽しく行えるようになることを目指しています。そしてこのマインドは俳優に限らず、誰にとっても重要なものです。
Learning
インプロを通して学べること
キース・ジョンストンのインプロは非常に大きなシステムです。したがって、その中には本当に多くの学びがあります。私(内海)はインプロを始めてから10年以上になりますが、いまだにインプロから学ぶことは尽きません。ここではインプロを通して学んだいくつかのことを紹介します。
失敗を楽しむ
私がインプロを初めて学んだときに一番衝撃を受けたのは、インプロの「失敗」に対する考え方でした。私はそれまで(多くの人がそうであるように)失敗は「良くないもの」「避けるべきもの」と考えていました。
しかしインプロでは失敗を「チャレンジした結果」「学びの機会」そして「楽しいもの」と考えています。そしてそのことを「いい話」としてではなく、体験として学べるのがインプロの魅力だと思います。
失敗について学ぶことは、インプロの基礎であり究極であるとも思います。キース・ジョンストンは「失敗について学ぶことが一番難しい」と言っていますが、私も折に触れてそのことを実感します。もう失敗を恐れていないつもりでも、やはりどこかには失敗を恐れている自分がいるものです。そしてそういう自分を発見するたびにまたひとつ自由になる、という経験を今でも重ねています。
安全な場所を作る
失敗を楽しむことに関連して、「安全な場所」を作ることに関してもインプロを通して学びました。私はそれまで学ぶことは個人の行為であり、その環境に関してはあまり注意を払っていませんでした。
しかしインプロをしていく中で、その場所が心理的に安全であるか、つまり安心して失敗できるかどうかが、何か新しいことを学ぶために決定的に重要であることが身にしみて分かるようになりました。
失敗が許されていない場所ではチャレンジをすることができません。それでは新しいことを学ぶことはできません。失敗が許されている場所だからこそ人はチャレンジをすることができ、そして新しいことを学べるのだと思います。
今では「いいインプロバイザー(インプロのプレイヤー)は安全な場所を作り、安全な場所はいいインプロバイザーを作る」と考えています。そしてワークショップをする時には安全な場所を作ることをいつも心がけています。
がんばらない
キース・ジョンストンはインプロを教えるにあたって、一般的に良いとされていることの反対のことを推奨することがあります。「がんばらない」もそのひとつです。
キース・ジョンストンはインプロをするにあたって、「普通でいる(Be average)」「頑張らない(not trying)」「つまらなくやる(be boring)」と言います。
「上手にやろう」「頑張ろう」「面白いことをしよう」とすると自意識が働き出し、即興することが難しくなります。そのようなインプロはお客さんにとっても気持ちのいいものではありません。
インプロで目指すのは、「自然でいい感じ(Good natured)」で舞台に立つことです。とはいえ、これも頭では分かっていても実行に移すのは難しいことです。私もいまだに「あ、今の自分は頑張っていたな」と気づくことがあります。そしてそのたびに少しずつ自分が自然体に近づいていく経験をしています。
スポンテイニアス(Spontaneous)
インプロは「がんばらない」ものですが、ではアイデアはどうやって出すのかというと、「スポンテイニアス(Spontaneous)」という言葉がキーワードになってきます。
Spontaneousとは「自然発生的」「自発的」といった意味を表す英単語です。インプロではアイデアを頑張って考え出そうとする状態ではなく、自然に浮かんできたものを素直に表現している状態のことを指します。
スポンテイニアスが一番分かりやすい状態は、夢を見ている時だと思います。人は夢を見ているときに「この先のストーリーはどうしよう」などと考えることはありません。それは本当に自然にやってくるものです。また、子供が夢中で遊んでいる時などもスポンテイニアスと言えるでしょう。
インプロをするときにはスポンテイニアスにアイデアを出すことが基本です。そしてそのためには「頭の中の検閲官」に気づくことが重要になります。
頭の中の検閲官に気づく
キース・ジョンストンは「人の頭の中には検閲官がいる」と言います。そしてその検閲官は次のようなアイデアを否定すると考えています。
- 精神病的なこと(psychotic)
- 卑猥なこと(obscene)
- 独創性に欠けること(unoriginal)
夢がそうであるように、スポンテイニアスなアイデアは自分では直接コントロールができないものです。だから時には上にあげたようなアイデアも出てきます。
その時多くの人はそれらを「ダメなアイデア」として否定してしまいます。そして結局は「いいアイデア」を頑張って考えようとしてしまいます。しかしそれではスポンテイニアスになれません。
検閲をすること自体は悪いことではありません。社会的に生きていくためには必要なことでしょう。しかしそれが無意識になっていると、想像の可能性が狭まってしまいます。インプロをする時にはまず検閲に気づき、そして選択できるようになることが理想です。
パートナーにいい時間を与える
インプロはスポンテイニアスに行うものですが、しかしそれぞれが自分勝手に振る舞うものでもありません。キース・ジョンストンはインプロにおいて「パートナーにいい時間を与える(Give your partner a good time)」ことを重視しています。
キース・ジョンストンのインプロにおいて「うまくいった」とは、「いい演技ができた」「いいストーリーができた」ことよりも、「パートナーにいい時間を与えることができた」ことを意味します。そしてインプロを見るお客さんはプレイヤー同士がすばらしい関係を持っていることを見て、それを喜びに感じて笑うと考えています。
パートナーにいい時間を与えるにはある程度のコツはありますが、絶対の正解はありません。それはプレゼントをあげることと同じように、相手によって違い、また同じ相手でも状況によって違います。相手の様子を見て、まさに即興的に行う行為です。
正直なフィードバック
「パートナーにいい時間を与える」ことを学ぶためには、正直なフィードバックも大事になります。
世の中のほとんどの場所では正直なフィードバックは得られないものです。しかしそれでは本当に成長することはできません。だからインプロでは嬉しかったことは嬉しかったと、困ったことは困ったと正直なフィードバックをすることを勇気づけていきます。そしてそのためにも安全な場所を作ることが重要になります。
失敗が許されていない場所では、正直なフィードバックを出すことも受け取ることも難しくなります。しかし失敗が許されている場所であれば、もっと言えば失敗することが当たり前になっていれば、シンプルにフィードバックを出したり受け取ったりすることができます。
その他の学び
ここで紹介したものはインプロにおける学びのごく一部にすぎません。ご興味のある方はぜひインプロ体験会へとお越しください。
For who?
どんな人におすすめ?
自分を探究したい人
インプロは即興で行うため、そこには自分の習慣がダイレクトに現れます。自分は失敗したときにどのような反応をしているのか、人と関わるときにどのような反応をしているのか。それらを思考ではなく、実体験から知ることができます。
私はインプロを学びはじめたのと同時期に瞑想(マインドフルネス)も学びはじめましたが、両者はとても似ているところがあると感じました。瞑想が「静」や「個」から自分を発見することだとすれば、インプロは「動」や「関わり」から自分を発見することだと捉えています。
コミュニケーションについて学びたい人
インプロで学ぶコミュニケーションは「こういう時にはこうしたらいい」というマナーやルールではなく、「目の前の人といい時間を過ごすためにはどうしたらいいか?」を探究していくものです。そしてそのことを身体的に学んでいくことができます。
以前の私はコミュニケーションよりも自己探究に興味がありましたが、今ではコミュニケーションのほうにより興味を持っています。自分が自由になることだけではなく、どうしたら人を自由にすることができるかについて考えています。
よりよい表現者になりたい人
「いいものを見せなければ」と思うと表現活動は途端に辛く難しいものになります。インプロではそのような自分を一旦手放して、スポンテイニアス(自然発生的)にアイデアを生み出せる状態・身体になることを目指します。それはどのような表現活動においても重要なことです。
私はインプロをはじめるまで「書くこと」に対して大きな抵抗がありました。文章を書くことは好きではあるものの、それ以上に「ちゃんとした文章を書かなければ」という思いが強く、書いては消しを繰り返していました。しかしインプロをするようになってから、ずいぶんとスムーズに文章を書けるようになったと感じています。
教育に活かしたい人
キース・ジョンストンはもともと教師であったこともあり、そのインプロは非常に教育的なものだと感じます。創造的になること、他者と協調すること、そのようなことが自然と学ばれる場所を作ること。インプロはこれらのことを実践的に学ぶことができます。
もともと私はインプロを教育で使える「ツール」だと思ってはじめました。しかしすぐに自分自身が変わることが大事だと思うようになりました。例えば教師が「失敗してもいいよ」と言っても、そう言っている本人が失敗を恐れていては失敗できる場所は作れないからです。そしてそれは創造性や協調性においても同じことです。
新しいことにチャレンジしたい人
インプロをすることはチャレンジをすることと言っても過言ではありません。だから新しいことにチャレンジしたい人はいつでも歓迎しています。「なぜだか分からないけれど面白そう」と思った人は、その好奇心を信じてぜひ一度ワークショップに来てみてください。
私はインプロを10年以上やっていますが、いまだにインプロでチャレンジしたいと思っています。どんなに上手いインプロでも、チャレンジしていないインプロは面白くなくなるからです。そしてインプロに限らずいつまでもチャレンジを続けることは、インプロを通して得た私の生き方でもあります。
他にもどんな人たちがクラスに通っているかは、受講者インタビューをご覧ください。
game
インプロゲーム
キース・ジョンストンは俳優が抱えるさまざまな問題を解決するために数多くのインプロゲームを開発しました。ワークショップではこれらのゲームを使ってインプロを学んでいきます。ここではいくつかのゲームを紹介します。
ワンワード
2人組から大人数までで行えるゲームです。ひとりひとことずつを話しながらストーリーを語っていきます。(例:昔々/山の中に/一匹の/狼が/いました。狼は/とても/強くて……)もし途中でつまったりストーリーがおかしくなったらみんなで「もう一回!」と言って新しいストーリーを始めます。
難しいゲームなので失敗して当たり前です。重要なのは失敗したと思ったらすぐに「もう一回!」と言ってやり直すことです。失敗をごまかそうとするとその場所は重い雰囲気になり、さらに失敗できない場所になっていきます。しかし、失敗をオープンにすればその場所はいい雰囲気になり、より安全な場所になっていきます。
サンキューゲーム
基本は2人組で行うゲームです。ひとりが体で形を作り、もう一人がそれを見て思いついた形で入っていきます。(例:「手を挙げている人」→「タクシー運転手」)ただし、形を見て何も思い浮かばないときは形を作っている人の体を動かして普通の状態に戻します。形を作っている人は入ってきてくれた場合も戻してくれた場合も相手に「サンキュー」と言って役割を交代します。
アイデアを頑張って考え出そうとするのではなく、自然に思い浮かんだものを表現することがポイントです。頑張ってアイデアを出そうとしている自分に気づいたら、それに固執せず相手を戻してあげればオーケーです。「アイデアが出ない自分」も受け入れることで、「アイデアを出さなきゃいけない」という恐怖を取り除いていきます。そしてその結果としてアイデアが出やすい自分になっていきます。
次どうなるの?
基本は2人組で行うゲームです。ひとりが相手に「次どうなるの?」と尋ね、相手は「森へ行きます」というように提案をします。尋ねた人は提案にインスパイアされたら実際に2人でそれを演じます(森の中を歩く)。提案されたことをしたら、再び同じ人が「次どうなるの?」と尋ね、提案する人が再び「小屋を発見しよう」というように提案することでストーリーを作っていきます。ただし、尋ねた人が提案にインスパイアされなかった場合はかわいく「ノンッ(Non)」と言って終わります(役割を交代するバージョンなどもあります)。
提案する人はいいストーリーを作ろうとするよりも、パートナーにいい時間を与えようとすることがポイントです。そして尋ねる人は自分に正直に提案を受け入れたり断ったりすることが大事です。本当はインスパイアされていないのに遠慮して受け入れると、お互いに楽しくない時間を過ごすことになります。ただし、厳しく「ノー!(No!)」と言うと提案する気持ちがなくなってしまうので、あくまでもかわいく「ノンッ(Non)」と言います。このゲームのエキスパートになるためには何千回とやることが必要です。そのためにも楽しくやることが大事になります。
イルカの調教ゲーム
イルカ役の人がひとり舞台に上がり、他の人は調教師役としてイルカに聞こえないようにやってほしい動き(例:正座する)を決めます。ゲームが始まったら調教師はイルカにその動きを教えますが、言葉で教えることはできません。イルカが自由に動き回っているときにやってほしい動きに近づいたら(例:しゃがむ)「リン」という合図のみでイルカに動きを教えていきます。イルカがやってほしい動きをできたら終わりです。なかなか分からずイルカが困っているときは調教師がヒントをあげます。もちろんお互いギブアップしても構いません。
このゲームで学ぶ主体はイルカではなく調教師です。そしてゲームが成功したか失敗したかは重要ではなく、イルカが自由に楽しく学べたかが重要になります。イルカ役の人に恥をかかせる無茶振りゲームではありません(そうなっていたらうまくいっていません)。学ぶ・教えるということに対してとても示唆に富むゲームだと思います。
その他のゲーム
インプロゲームはキース・ジョンストンが開発した以外のものも含めると数百に及び、ここで紹介したゲームはその一部に過ぎません。ワークショップではそれらのゲームの中から、参加者や目的にあわせたゲームを選択していきます。ご興味のある方はぜひインプロ体験会へお越しください。