シアタースポーツとは?その発展と誤解

シアタースポーツは、インプロをショーとして見せるフォーマットのひとつです。インプロの父と呼ばれるキース・ジョンストンが開発しました。上演するにはITI(International Theatresports Institute)からライセンスを取得する必要があります(インプロアカデミーはライセンスを取得しています)。

シアタースポーツでは通常2つのチームが対戦します。チームが順番にチャレンジ(例:動物が出てくるシーンにチャレンジ)を提案し、そのチャレンジに沿ってインプロを行います。そして3人のジャッジがシーンごとに1~5点の点数をつけていき、最終的に点数の高いチームが勝利、というフォーマットです。

マエストロが個人戦だとしたら、シアタースポーツは団体戦、というイメージです。また、マエストロは初心者向けで、シアタースポーツは中級者向けと言ってもいいでしょう。マエストロの場合、ディレクターがシーンのセッティングをしてくれますが、シアタースポーツでは自分たちでセッティングしていく必要があります。したがって、ディレクターの視点も少し必要となります。(キース・ジョンストンが開発したもうひとつのフォーマット「ゴリラシアター」はさらに上級者向けで、お互いにディレクションをしていきます。)

シアタースポーツの発展と誤解

シアタースポーツはキース・ジョンストンのフォーマットの中でも、圧倒的に世界に広まったフォーマットです。「キース・ジョンストン」の名前よりも、「シアタースポーツ」の名前のほうが広まった、と言ってもいいくらいです。(日本にインプロが入ってきたときも、「インプロが入ってきた」という認識ではなく、「シアタースポーツが入ってきた」という認識だったようです。)

しかし同時に、キース・ジョンストンのインプロが誤解される原因になったフォーマットでもあります。キース・ジョンストン本人もそれを認める発言をしています。ここではそのいくつかの誤解を見ていきましょう。

シアタースポーツは戦うもの?

シアタースポーツに対する最も大きな誤解は、「シアタースポーツは戦うものである」という誤解です。

たしかに、お客さんから見たときにはシアタースポーツは対戦型であると認識されます。そしてそれが「ショーらしさ」を生み出します。しかしプレイヤーたちが実際に行っているのは対戦ではなく協力です。

キース・ジョンストンは、プロレスを見ているときにシアタースポーツの構想を得ました。プロレスのように、一般の人も熱狂できるような演劇をすることはできないだろうか、という発想です。

プロレスはお客さんから見たときには戦っているように見えますが、実際には協力しています。もしプロレスで本当に戦ったとしたら、ケガが生まれるでしょう。シアタースポーツも同様に、本当に戦うとケガ(精神的なケガ)を負います。

とはいえ、世の中の多くのシアタースポーツが本当に戦っているのも事実です。だから誤解されるのも当然と言えるでしょう。

ではなぜ本当に戦ってしまうのかというと、「ジャッジが機能していない」ことが大きな理由だと僕は考えています。シアタースポーツのジャッジには「退屈へのホーン」という役割があります。これは、シーンが退屈になったときにホーン(パフパフと鳴るホーン)を鳴らすことで、シーンを強制終了させるものです。

一見すると厳しいルールに見えますが、実際にはホーンがあることによってチャレンジしやすくなります。うまくいかなくても、すぐにジャッジが止めてくれるからです(そしてその信頼関係を築いていくことがとっても重要です)。

反対に、ホーンが無いとチャレンジをすることが怖くなります。その結果「失敗しないようにしよう」「うまくやろう」というモードになり、それが結局は「負けたくない」「本当に戦っている」感じになってしまいます。

シアタースポーツは、ジャッジも含めてひとつのチームとして協力することが本当に大事なことです。そうすれば、シアタースポーツはどんどん安全なフォーマットになっていきます。

シアタースポーツはゲームを見せるもの?

シアタースポーツに対するもうひとつの誤解は、「シアタースポーツはゲームを見せるもの」という誤解です。

しかしこれもキース・ジョンストンの意図したところではありません。ゲームはたしかに面白いものですが、ストーリーテリングのほうがもっと面白いとキース・ジョンストンは言っています(そして僕もそう思います)。

しかし世の中には、ほとんどゲームしかしないシアタースポーツもあります。

なぜそうなってしまうかというと、僕はこれも恐怖によるものだと思っています。型の決まっているゲームは、本当にどうなるか分からないシーンよりも怖くありません。だからシアタースポーツを恐れている人はゲームを選択してしまうのです。

もちろん、「本当にゲームがやりたい!」という場合はゲームをやればいいと思います。僕が問題にしているのは、本当はシーンをやりたいのに、恐れからゲームを選択してしまう場合です。

ここでも重要なのは、安心してチャレンジできる、失敗できる状況を作ることです。そしてそのためにはジャッジの役割が大事になります。シアタースポーツは本来、安全なフォーマットなのです。

で、あなたはどんなシアタースポーツをしたいの?

いろいろと批判的・皮肉的なことも書いてきましたが、最後は僕がどんなシアタースポーツをしたいのか、について書いておこうと思います。

僕が今行っているクラスで目指しているのは、「全員が協力しているシアタースポーツ」です。特にジャッジの役割がとても重要だと思っています。

そこで実践クラスでは3つのチームに分かれて、ジャッジも含めて稽古しています。最初のうちはなかなかホーンを鳴らす(強制終了させる)ことができませんでしたが、最近では遊び心を持ってホーンを鳴らせるようになってきています。終わったあとには「あのタイミングで助かった」「あれはもうちょっと続けたかった」「もっと早く殺して~笑」という正直なフィードバックも交わしています(僕はこの正直なフィードバックが交わされる時間が好きです)。

また、「シーン中心のシアタースポーツ」も目指しています。

未知や失敗への恐れが出てくるとプレイヤーたちは面白いくらいゲームへ寄っていくのですが、そうなっていたときは「そうなっていたねー」とふりかえって、再びシーンにチャレンジするよう促しています。そしてそのためにも、フォーマット自体が安全に感じられることが大事だと思っています。

僕はシアタースポーツは意外と難しいフォーマットだと思っています。シーンはいまだにうまくいったり、いかなかったり、やっぱりいかなかったり(笑)のくりかえしです。しかしそのことも含めて、まるっと楽しめる時間になればと思っています。インプロにはゴールはなく、ただチャレンジの連続があるだけなのですから。

実践クラスのシアタースポーツは、11月から3回上演を行います。オンラインで無料で見られますので、どうぞお気軽にお越しください!詳細・ご予約はこちらから

東京学芸大学に在学中、高尾隆研究室インプロゼミにてインプロ(即興演劇)を学ぶ。大学卒業後は、海外を含む100を超えるインプロ公演に出演するほか、全国各地において1000回を超えるワークショップを開催している。NHK『あさイチ』出演。共著書『インプロ教育の探究』
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