なぜコーチがインプロを学ぶのか? ~インプロとコーチングの交差点~

こんにちは、内海です。7月20日(月・祝)に青山ブックセンター本店にて『ほんとうの自分で人といられるレッスン』出版記念イベントを行いました!当日は30名を超える方に来て頂きました。ご来場いただいたみなさま、ありがとうございました!

最近のインプロアカデミーには、コーチの人が来ることが増えています。そこでイベントの第二部では「インプロとコーチングの交差点」をテーマに、インプロバイザーのうっちー(内海隆雄)とコーチのはる(佐藤春幸さん)が語り合いました。この記事ではその様子を抜粋してお届けします。(第一部の様子はこちらの記事で紹介しました。)

写真左:佐藤春幸(さとうはるゆき)
ライフコーチ・エグゼクティブコーチとして、若手社会人から管理職・経営層まで、人がより良く働き、生きることに伴走。2023年よりインプロ(即興演劇)を学び始め、そのアプローチも取り入れながら、人や組織の変容を支援している。

写真右:内海隆雄(うつみたかお)
インプロアカデミー代表。東京学芸大学に在学中、高尾隆研究室インプロゼミにてインプロ(即興演劇)を学ぶ。大学卒業後は、海外を含む100を超えるインプロ公演に出演するほか、全国各地において1000回を超えるワークショップを開催している。

インプロとコーチングの交差点

うっちー「そもそもインプロアカデミーに行ってみようって思ったきっかけは何だったの?」

はる「それはあるワークショップに参加していて。自分はどう生きたいかをひたすら問われ続けたり、20人ぐらいの輪の中で表現し続ける、みたいなけっこうぶっとんだプログラムだったんですね。そこで僕は僕なりにやったんだけど、ファシリテーターの方から『はるは首から上しか使ってない』っていうフィードバックを受けたのがけっこう強烈で。当時もう四十過ぎていい大人だったけど、そんな自覚もなかった。でもたしかに、あんまりエネルギッシュに立ち振る舞ったりっていうよりも、スンッとしてカチッとしてる自覚もあったし、自分を表現することもやってなくて。で、それがきっとこれから先の自分のパフォーマンスとか、人と何かをするとか、人に影響を与える意味で課題なんじゃないかなって思ったのがきっかけです」

うっちー「インプロのことを知ったのはいつだったの?」

はる「アカデミーに初めて行ったのは3年前だけど、初めてインプロっていう言葉を聞いたのはその10年くらい前で」

うっちー「おお、そんなに前なんだ」

はる「ただその10年間は一切やらなくて。でもそのフィードバック聞いた時に、『あ、インプロが今必要なのかな』って思って。ただ僕は昔からそういう演劇系のワークショップとかは『俺は絶対こういうのは行きたくない』って思ってたし、インプロを最初に聞いた時も『違う世界のことだ』って思っていたから、10年越しでした」

うっちー「なるほど。じゃあ体験会に足を踏み入れる時の気持ちとしてはどっちだったの?もう前向きだったのか、まだやりたくないけど必要だから来た、みたいな感じだったのか」

はる「半々で、もし会場入る前からガヤガヤしてたらどうしようと思って。盛り上がってたらどうしようって」

うっちー「なるほど(笑)」

はる「そしたら意外と大人な雰囲気があって、うっちーも別にキャッキャしてなかったから大丈夫かもしれないと思った」

うっちー「おー、それで体験会を受けての印象はどうだった?」

はる「シンプルに面白いなと思ったし、ひさしぶりに楽しく遊ぶっていうことを、大人になってからやったなっていう感じがあった」

うっちー「なるほど。それで次に来たのが基礎クラスだったっけ?」

はる「うん、すぐ通ったと思う。基礎クラスのシリーズものに」

うっちー「一番長かった6回シリーズのときだったね」

はる「そうそう。そこで出会った方も今日は何人かいらっしゃいますね。で、あれに行きながら、うまくできないこともたくさんあるんだけど、『もっとうまくなりたいな』とか『もっと楽しくやりたいな』とか思って。あとは単純にすごい楽しかったからまた来たいなとか、そんな感じでけっこうコンスタントに続けていたね」

うっちー「学んでる中で印象に残った場面とか言葉とかゲームとかでもいいんだけど、何かあったりする?」

はる「解決社長かな。インプロのワークで、面倒くさいことが起きるんだけど、『ちょうどよかった』ってまず口走って、そこから何かポジティブなアイディアに変換するっていうワークです。あれは翌日から仕事中もすごく頭をよぎって、めんどくさいことが起きても、『ちょうどよかった』って一人で言って。で、言うと何か出てくる。『こういう点で言えば、悪いことでもないのかな』とか『めんどくさいけど、これやったらいいこともあるじゃん』みたいな。あれはけっこうセンセーショナルだった」

うっちー「おー。では逆に、ここは難しいっていうところはあった?」

はる「はじめての3日間ワークショップで、最終日に舞台に立つっていうプログラムに出たときかな。自分なりには『よくわかんないけど、安定感あったな』って思って。でも終わった後、うっちーから一人一人フィードバックが来たんだけど、そのときに『はるが一番練習と違ったね』って言われて。最初は『本番すごく良かったよ』って意味かなと思ったんだけど、『本番緊張してた?』って言われて。そのときに一番自信を……覚えない?」

うっちー「覚えてる覚えてる。あのときは、ワークショップ中のはるがめちゃくちゃ良かったんだよね」

はる「1日目、2日目」

うっちー「そうそう。けっこうワークショップを引っ張ってくれる感じで。その引っ張り方もいい引っ張り方というか、自分を投げ出して引っ張ってくれるみたいな感じがあった。でもショーではそれではなかった気がする、みたいな。悪くはないんだけど、上手にできてるんだけど、やっぱりインプロは飛び込んでほしい、みたいなものを最初のショーのときには感じたかな。でも2回目はどうだった?」

はる「2回目は1回目よりも楽しんでたし、ちょっとふざけられた自分がいたなと思った」

うっちー「うんうん。で、その後に出したフィードバックも覚えてる。はるは『安定感ある』ってよく言われるタイプだけど、このショーでも安定感があった。でもそれははるが普段言われてる『大人らしい安定感がある』っていうことじゃなくて、『いつでもふざけられるぞっていう安定感がある』っていう意味で、それがとても良かった。っていうことを伝えた気がする。 覚えてる?」

はる「覚えてる覚えてる」

うっちー「それを聞いた時はどうだった?」

はる「すごい嬉しかったし、あの回はふざけるとか遊ぶとかをテーマにしていたし、自分もそれを意識したから、それで入れたっていうのはすごい嬉しかったね」

うっちー「では改めてコーチングに戻ってきて。アカデミーにはコーチがよく来るんだけど、コーチがインプロを学ぶ意味って何なの?っていうのを聞いてみたいと思いました。もちろん人によって違うとは思うんだけど、はるにとってどうなんだろうっていうのを聞いてみたいなと思いました」

はる「まずはコーチはこういう世界観が好きなんだろうなって気がする。自由でとか、本当の自分でいられる、みたいなことをコーチングでは根っこの価値観として持った上で対話をしていくので。インプロもそういう世界観だから、コーチが引きつけられるんだろうなって思います」

うっちー「なるほど」

はる「コーチがインプロ学ぶ意味はいくつかあるけど、まずはコーチングって仕事の悩みを話す時も、整理して解決策を決めていくわけではなくて。『色々起きてるけど、そこに向き合ってるあなたは今どう?』っていう人に焦点を当てていく仕事なので。で、その人の中の思い込みとか、思考の絡まりみたいなのを解きほぐしていくんだけど、それを通してよりのびのび生き生きしたその人に戻っていくという感覚がある」

うっちー「うんうん」

はる「なので、インプロをやって感じる『あ、今なんか自由でいられてるな』とか『のびのびいられてるな』とか、あと人のインプロを見てても『あ、生き生きしてるな』みたいな、その感覚を知っておく。それを知っておくと、コーチングをやっていても、その人が今本当に生き生きしているのか、それとも言葉ではそれっぽく言ってるけど、まだその人が解放されていないのか、っていう感度が磨かれるっていうのはあると思う」

うっちー「なるほどねぇ。ではもう少し突っ込んで聞きたいんだけど、コーチング自身もそれをやることではあるじゃん。それでもあえてインプロをやる利点みたいなことって何なんだろうって思って」

はる「手っ取り早いんじゃないかな」

うっちー「手っ取り早い」

はる「うん、手っ取り早い。コーチングってなんだかんだで言葉のやりとりが多いので、時間もかかるし、言葉の受け取り方も人によって違うので、『あ、ちょっとそういう意味じゃなかったんだけど』みたいなことも起こったりもする。でもインプロってもう身体を使ってやるし、自由になった方が面白くて楽しめるゲームがたくさんあるから。だから手っ取り早いなっていう感じがする」

うっちー「逆に言うと、首から上になった時のつまらなさがすごいよね」

はる「うん、そうそう。もう一つコーチがやる意味は、ある種コーチングの中でも、遊び心を持ち込みやすくなるなっていうのがあって。 例えば真面目な悩みの話をコーチングの中でしている時に、ずっと真面目に一緒に悩みについて向き合うのもいいんだけども。でもコーチングの中でも『じゃあ私がちょっとその意地悪な上司になるんで、あなたが本当に言いたいことをぶちまけちゃってください』みたいなこともやろうと思えばできるし。そういう遊び心みたいなものを持ち込めるとコーチングの幅が広がるようにもなるので、それもテクニカルな意味としてはあると思う」

うっちー「なるほどね。じゃあ逆に、ここはインプロと違うなみたいなところって何なんだろう。共通点はいっぱいあるけど、相違点、インプロとコーチングの相違点って何なんだろう」

はる「難しい質問だね。インプロって誰がどう始めるかも決まってないし、何が起こるかわかんないし、どう終わるかもわかんない。でもコーチングの場合は、今日この対話で何を話したいのかとか、話してどうなりたいのかっていうのは、あくまでコーチングを受ける人が決めるっていう前提があるので、そこがやっぱり一番違う気はする。インプロってもっと自由というか、決まってないっていう感じ」

うっちー「なるほどね。でもコーチとして、話したいこととかこうなりたいって言ってる姿を揺さぶりたい、みたいになることってないの?」

はる「ある。でも結果どうするかはその人が決める」

うっちー「あーなるほど」

はる「そこは常に持ってる感じ。『あくまで私も思ったことですけど、聞いてみてどうですか?』とか」

うっちー「たしかに。インプロだとそのまま揺さぶってっちゃうみたいなところもある」

はる「ちょっと大人なのかな、コーチングの方が」

質問タイム

続いては、司会のともちん(高橋智子さん)が参加者に質問を募集しました。

参加者「スキル的な話になっちゃうかもしれないんですけど、さっきの『嫌な上司役になるからやってみてよ』みたいな、コーチングにこういうふうにインプロを使ってる、というお話をもっと知りたいなと思いました」

はる「例えば課長さんとお話していて、新しくやってきた部長さんともっと信頼関係を作らないと自分の仕事が前に進まない、みたいな状況だとしましょう。その人がすごい苦手なタイプで。で、コーチングで話して、その部長さんとの関わり方をこういうふうに変えたいっていう方向性が決まったら、『僕がその部長さん役をやるんで、今日ここで一回練習しときましょう』と、そんな感じです。あくまでそのちょっと一歩を踏み出すぐらいができたらOKなので、その練習としてやったりします」

うっちー「へぇ。そういうこともしてるんだねぇ」

はる「あとはインプロで学んだ概念、それこそ『イエスアンド』とかさっきの解決社長の『ちょうどよかった』みたいのは、『僕インプロやってるんですけど、インプロだとこんな考え方もあって、こういうのを材料にすると何かヒントになりますか?』とかも言ったりします。『ちょうどよかったって捉えたらどんな良いことがありますか?』とか、『一旦ここにイエスして状況を受け入れた上だったらどうしますか?』みたいな。そのまんま使えて役に立つコンセプトもたくさんあるので、そういうのは使ったりすることがあります」

参加者「ありがとうございます」

ともちん「他に質問ある方はいらっしゃいますか?」

参加者「ちょっとトリッキーな質問になっちゃうかもしれないんですけど、今回の本のタイトル『ほんとうの自分』に関して、例えばジャイアンっているじゃないですか。ジャイアンとかって本当の自分でいると思うんですよ。自分は楽しいし、自分らしくいる。でも周りから見たら『うーん』みたいなこともあるような特殊なキャラクターだと思うんですけど、もしジャイアンがここにいたとしたら、二人はどういう思いで関わりますか?っていうのを聞いてみたいです」

はる「なんかジャイアンに言いたいことがありそうだな」

うっちー「コーチっぽい関わりだ(笑)」

はる「もしよければ、背景として聞きたい」

参加者「背景としては、この本をいろんな人に勧めたら面白そうだなと思った時に、内省的に関わる人には響くと思うけど、『自分はオープンである』って思っている人ほど『ああ、よくあるよくある』ってパッと閉じるようなイメージがあって。なのでおふたりはどういうアプローチをされるかなっていう疑問を持ちました」

はる「そうですね。 そもそも前提として、そんなジャイアンを変える必要があるのかっていうのもあると思うんですけど、ちょっとその話をすると長くなるので。仮にジャイアンも変わってもらわないと困るっていう状況を考えましょう」

参加者「例えばチームの人から困ってるって相談を受けた時とかですね」

はる「なるほど。仮に『はるさん、コーチングで何とかしてください』っていうことが決定しているという状況だったらですね。まずはジャイアンから見えていない世界があるので、その認識のギャップを埋めるための作業が必要かなと思います。ジャイアンにフィードバックするということが必要で、そのやり方とか誰が言うかはいろいろあるんですけど、それができた上でジャイアンが『たしかにこのままじゃ自分も嫌だな』って思えば可能性はある。『いや、それでも俺は俺で』ってなるとけっこう難しいなって。でも少なくともフィードバックは必要で。実際のエグゼクティブコーチングでもそういう案件はあるので。『この人役員に昇格させたいけど、ちょっとハラスメント気質があるので、コーチングでなんとかしてくれ』みたいな」

参加者「ドラえもんみたいですね」

はる「そのためにはやっぱりフィードバックが必要なので、それはちゃんとしてください、なんならコーチもそこに同席して、本人がしっかり受け止めやすいようにファシリします、みたいなこともあります。コーチング文脈だとそんな感じ」

うっちー「なるほど。 じゃあ僕はそのジャイアンみたいな人がインプロワークショップに来たらどうするかっていうことなんすけど。この本のタイトルって2つのポイントがあるんですよ。『ほんとうの自分で人といられるレッスン』なので、ジャイアンは本当の自分なんだけど、人といられないんだよね」

うっちー「実際ワークショップにそういう人が来ると、本の第2部の内容、検閲しないで自己表現しましょう、みたいなことはジャイアンはけっこうできます。けど、ジャイアンはとにかくイエスアンドができないんですよ。で、これはアカデミー来る人だからっていうのもあるけど、イエスアンドができないことに愕然とします。そして今まで自分は人のアイデアをどんだけ潰してきたんだっていうことに気づいて、変わる兆しを見せてくれる人の方が多いなと思います。ただ、やっぱり時間はかかるなと思います」

はる「うん」

うっちー「だから明日から急にできるみたいなことはなくて。ただ、その方向に向かっていること自体が大事だと思っています。その方向に向かって失敗して『ああ、また失敗しちゃった。次は気をつけよう』ってやってる人はなんか許せるんですよ。だからその方向に向かっているっていうことが大事だなと思います。そんな感じかな」

参加者「ありがとうございます」

ともちん「いい時間になってきたので、そろそろ閉じていこうかなと思うんですけど、ちょっと私からもはるに一つ質問してみたいなと思います。今日はインプロを体験してる人もいるし、まだしてない方もいらっしゃると思うんですけど、私から見ても、はるはすごいインプロをしてるじゃない?何がそんなにハマらせるのかな、っていうのをちょっと聞いてみたいです」

はる「自分が自由でいられることが気持ちがいい!あとはまわりの人から『なんか軽くなったね』ってこの数年よく言われるので、それも嬉しい。自分もハッピーだし、まわりの方にとってもハッピーだし、やめられないなって(笑)」

ともちん「ありがとうございます。うっちーどうですか?それを聞いて」

うっちー「軽い人って悪い意味で捉えられるけど、アートにおいては軽さは正義だなと思っていて。歌手も軽々歌える人の方が上手だし、ダンサーも軽々踊れることが大事だし。アートにおいては軽さは正義だな、っていうことを思っているけど、これはまだ本に書いてないので、こういう話があるんだなっていう発見がありました」

ともちん「ありがとうございました。では最後に、おふたりに拍手をお願いいたします」

イベントは予想を遥かに超えたいい時間となりました。ご来場頂いたみなさま、企画してくれたはる&ともちん、素敵な会場を貸してくださった青山ブックセンター本店さん、関わってくださった全ての人に感謝しています!

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東京学芸大学に在学中、高尾隆研究室インプロゼミにてインプロ(即興演劇)を学ぶ。大学卒業後は、海外を含む100を超えるインプロ公演に出演するほか、全国各地において1000回を超えるワークショップを開催している。NHK『あさイチ』出演。著書『ほんとうの自分で人といられるレッスン』
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