大学教授に聞く「インプロと教育の関連性」~たかひささんインタビュー~

過去にインプロアカデミーのクラスにご参加いただいた方に感想をお伺いする受講者インタビュー!今回は高崎経済大学・准教授のたかひささんにインタビューをしました。
《インタビュワー(太文字):リタ》

インプロアカデミー受講者:高崎経済大学・准教授のたかひささん    

インプロに興味を持ったきっかけを教えてください!

2020 年4月に行われたImpro Kids Tokyo(以下、IKT)のオンラインショーを見て、インプロの存在を知りました。

その頃は新型コロナウイルスが流行し始めていた時で、「オンラインで一体何ができるのか?」ということが課題だったので、Twitter で流れてきた「(IKTの)オンラインでインプロのショーをやる」というツイートにとても興味を持ちました。オンラインでそんなことができるのだろうかと。

高尾隆先生と中原淳先生による「『Learning × Performance インプロする組織:予定調和を超え、日常をゆさぶる」』(2012 年、三省堂)という本は持っていて、ぼんやりと「インプロ」という言葉ぐらいは聞いたことがありつつも、ほぼ何も知らない状態でしでた。

当時はオンラインがそれまでとは比べ物にならないほど使われるようになり盛り上がっていましたし、使わざるを得ない状況になっていました。それまでは教室で行なっていた授業やグループディスカッションが、オンラインでどこまでできるのかは未知数でした。Zoom などのツールの機能的にも学生の対応能力的にも、「オンラインでどこまでできるのか?」ということを模索していました。

そこから半年くらい経って、インプロアカデミーの存在を知り、2021 年3月からの「キース・ジョンストンのインプロ」クラスを受けるか検討しました。IKT とインプロアカデミーのウェブページをよく見て、インプロ自体やその思想がとても魅力的だったので参加を決めました。

たかひささんはインプロのどんなところに魅力を感じましたか?

キース・ジョンストンによるインプロは思想がしっかりしていて、世界観や言葉が独特で魅力がありました。教育の分野もありますが、企業研修やチームビルディングにおける可能性も自分としては興味を惹いたポイントでした。

「インプロの思想」ってすごく意外ということはなくても、どこか独特ですよね。他に似てる考えがないわけじゃないけど、しっかりとした世界観とユニークで魅力的な言葉があると感じています。「失敗を楽しむ」とか「失敗を恐れない」みたいな考えは世の中で他にもあると思いますが、それを世界観の中で体現している。「相手をよく見せる(make your partner look good)」とか「相手に良い時間を与える(give your partner a goodtime)」とかは、よさそうな言葉だけれども具体的に何をすればいいかよくわからないじゃないですか。すごく抽象的で、だからこそすごく面白いなって思います。

それから、インプロで振り返り(リフレクション)を重視することは教育に通ずるところがあるんですよ。特に、僕も取り組んでいるリーダーシップ教育ではリフレクションや相互フィードバックを大事にしています。振り返りやお互いにフィードバックするってことは目新しいことではないんですけど、それらをちょっと違う文脈やスタンスで体を使うワークやシーンをしながらやっているのがインプロの興味深い点です。

なるほど!ちなみに教育の場ではリフレクションってどんなことをやられているんですか?

世の中全般で言えば、授業をした後にやりっぱなしにしないで、リアクションペーパーを書いたり意見交換をしたりということがあります。リーダーシップ教育では、最初に「今日はこういうリーダーシップ行動をします」というリーダーシップ行動目標を立てて、それを授業が終わる時に振り返ります。リーダーシップは他者に影響を与えるものなので、他者からどう見えているかや他者にどのような影響を与えたかが決定的に重要です。でも「自分はその行動ができてたいたかどうか」や「その結果として他者にどのような影響を与えたのか」ということは自分一人ではわからない。そこで、お互いにフィードバックをします。

僕もゼミでこのようなことをやってますけど、インプロはインプロでゲームやシーンの振り返りやフィードバックとして似たことをやっていますよね。

ゼミといえば、インプロアカデミー講師の忍翔にオンライン(Zoom)のインプロワークショップを実施してもらいました。去年の6・7月に1時間半のワークショップを5週連続で 5 回お願いしました。チームビルディングや心理的安全性を高めることが狙いでした。

学生の皆さんの反応はいかがでしたか?

特に言葉が印象に残っているようでした。前期にワークショップを実施したのですが、後期になっても「自己検閲」や「イエスアンド」という言葉が出てきてビックリしました。特に「自己検閲」については、みんな自分の頭の中で思いついていることを「言おうかなどうしようかな」って考えて止めちゃっていることが多いようで、それを自覚するということも含めてすごく響いたようでした。実際に身体を動かして体験したことで、言葉や世界観が印象に残りやすかったということもあるのだと思います。

同じ教育者の方や職場の方が、インプロを取り入れることは多いのでしょうか?

すごく多いわけではないんですが、中にはいらっしゃいますよね。リーダーシップ教育に携わっていらっしゃる先生でゼミにインプロを導入している先生も知っていますし、僕の大学でも入学したばかりの1年生を対象とした初年次教育のゼミでインプロのゲームを独自で使っている先生の話を聴いたことがあります。インプロの思想的な部分まで学ぶというよりも、ウォームアップや仲良くなって関係性を深めるために取り入れられている例も多いと思います。デザイン思考や起業といったアイディアや創造性が求められる分野でも活用されています。実は、僕もインプロだとは知らずに、「イエスアンド」を使ったゲームや「私は木です」といったようなインプロゲームをゼミや企業研修で使ったことがありました。デザイン思考や起業のメッカであるスタンフォード大学 d スクールの授業を取り上げた「スタンフォード白熱教室」というDVDで見たゲームを見よう見まねで導入したんです。インプロアカデミーのキースクラスで「これインプロのゲームなんだ!」と驚きました。

教育現場にインプロを取り入れるなら、具体的にどんな使い道がありますか?

既に述べたように、ウォームアップやアイスブレイクとして導入できますし、仲良くなったり関係性を良くしたりするためにも使えると思います。単純に楽しくて学生を惹きつけられますし、授業を進めていく際のアクセントにもなります。インプロの思想をどこまで取り扱えるかということはありますが、ゲームの中にもインプロの思想は息づいていると思うので、それを感じ取ってもらうこともできるのではないかと思います。「失敗を恐れない」とか「失敗を楽しむ」という考えは、学びをより豊かにしたり創造性を高めたりするために有効です。それから、人とのコミュニケーションや関係性についても学ぶことができますし、ロールプレイで他の立場を演じることで他者への理解も深められると思います。

インプロアカデミーのクラスに参加してみて気づいたことや学んだことを教えてください!

最初に申し込む時にも、「やってみたい!」という気持ちもありつつ、「できるのかな?」という飛びこむ怖さがあったのはよく覚えています。演劇経験があるわけではなく、まったく知らない分野ですし、知り合いがいるわけでもないし…笑

やってみて、最初はよくわからなかったです。二か月間のクラスでは大してわからない。インプロの考え方自体は ウェブページを読んで頭に入ってましたが、実践するというのは全然違いますよね。いまもよくわかっていないですけれども、「相手をよく見せる」とか「相手に良い時間を与える」といった考え方も興味深かったですし、ステータスチェンジやどちらが主人公みたいなストーリーやシーンの作り方も面白かったです。わからないなりに楽しんでやっていました。それから、オンラインでの見せ方というか、例えばプレゼントゲーム(相手に架空のプレゼントを渡しあうインプロのゲーム)で Zoom の画面を利用して相手に渡しているかのように見せられる…とかそういうことも勉強になったし面白かったです。

そもそも「『良いシーン」って、曖昧じゃないですか笑

二か月間のクラスの最後にある「マエストロ」のオンラインショーにも出演しましたが、一点と五点で五点が良いシーンだとしても、一点のシーンもそれはそれで悪いわけじゃないと言うし…。そもそもお客さんはどう感じて点数をつけてるんだろうって気になりました。

それから 2022 年3月までの六か月間のインプロアカデミアというクラスを受けて、さらに 2022 年4・5月のオンラインクラスを受けて、ようやくこのシーンではこうすればよかったなどのシーンの振り返りができるようになりました。他にも「直井玲子氏によるアプライド・インプロ(応用インプロ)特別クラス」も受けていて、ずっとインプロしていますね…!オンラインショーは気軽に観られるので、時間が合えば観られるものは観ています。

最後に、「どんな人にインプロがおすすめか」ぜひ教えてください!

僕自身は、性格や職業柄もあって普段から「スポンテイニアス(spontaneous)」や「普通でいる(Be Average)」という状態にかなり近い部分があって、そういう意味ではインプロと相性が良かったのだと思います。ただ、さきほどの学生の話ではないんですけれども、世の中には環境や自分の中で思い込んでしまっている制約によって、「これを言っちゃいけない」とか「これをしちゃいけない」というような検閲が強い人が多いと思います。そういった人たちは、「失敗をオープンにする」とか「余計なことをする(misbehavior)」といったインプロの考え方を知ることで、自由になったり楽になったりできるのではないかと思います。

教育との関連という点では、学級運営をする際にチームビルディング的に使えるのかなと思います。みんなの関係性を良くしたいっていう問題意識がある人に、役立つのではないかと思います。それは教育者であっても、職場の管理職であっても、家族であっても共通すると思うんですけど、関係性を改善できるっていうのが大きいですよね。

自分自身のあり方とかコミュニケーションの仕方とかも、整えていけそうです。相手に良い時間を与えようとか、相手を良く見せるとか、相手から影響を受けるとか、相手からどんなオファーが出てるかとか、そういう言葉や考えをふとした瞬間に意識するだけでも人との関係性についてもうちょっと良いやり方を見いだせる気がします。

インプロアカデミーでは多種多様なバックグラウンドの方がクラスに参加しています。このインタビューを読んでインプロを学ぶことに興味を持ってくださった方は、ぜひ一度クラスページをご覧ください。→クラス一覧

中学高校時代にオルタナティブ教育に通い、芸術の授業で演劇を学ぶ。また授業の一環としてドイツにて朗読公演を二週間で十公演行った。大学ではプロデューサー・ジャーナリストコースを専攻し、舞台演劇では役者、プロデュース、広報、制作、動画編集方面を意欲的に学びながら活動している。
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