インプロアカデミーのクラスに通ってくれた方に感想をお伺いする、参加者インタビュー。今回はスポーリンクラスのひことかよに聞いてきました。インプロ歴が長く、さらに教育や子育て世代へインプロを通した活動をされている2人。この2人だからこそ聞けた話がたくさんありました。ボリューム多めですが、ぜひ最後までご覧ください!
か)かよ ひ)ひこ め)めろ
インプロ歴はどれくらい?
め)今日はよろしくお願いします!早速ですが、まずは2人のインプロ歴を教えてもらってもいいですか?
か)私は、7年前ぐらいに高尾隆さんの即興実験学校のワークショップに参加して、そこから趣味ですけど、いろんな方のインプロワークショップに参加して今に至るっていう感じです。
め)ショーとか出てたりするんですか。
か)ショーは1回、池袋の演劇祭で、高尾隆先生の教え子さんが主催していたものに出たのが初めてですね。ガッツリしたショーというよりは、舞台上でゲームをするみたいなものでしたが。
め)ひこはどうですか?
ひ)はっきりとは思い出せないんですが、十何年前だと思います。京都で活動しているトランク企画というチームがあるんですが、そのトランク企画が企画したベルギーのヤン・ファンデン・ブランデンさんっていうインプロバイザーのワークショップがあって、それに参加したのがインプロと名のつくものは初めて。
スポーリンクラスに通おうと思ったきっかけ
め)どうしてスポーリンのクラスに通おうと思ってくれたんですか。
か)そうですね。何でかな(笑)
コロナでオンラインが始まって、オンラインでインプロアカデミーに参加するようなりました。最初はキースインプロで、うつみくんとひろきゅんのクラス参加してたんだけど、なつみさんと忍翔さんのクラスのショーを見て、なつみさんに惹かれたんですよ。「凄い素敵な方だなぁ」って。あとスポーリンのクラスの解説とか読んで、「すごく感覚を大事にするんだ」と書いてあって、そういうのも興味湧きました。
キースって結構頭脳派?っていうわけじゃないけど、それまでただ楽しくてやってたのがキースインプロというものを学んでちょっと頭でっかちになっちゃった。考えすぎて動けなくなったとこがあるんです。だからちょっと感覚に戻ってみたいみたいなところがありました。
あとは、すごいなつみさんとりなさんの場ってすごい女性的というか、ふわっと柔らかい癒される所もあってね。
め)なつみさんのふわっとした雰囲気は惹かれますよね。
か)あとは自分でも親子向けにワークショップしたこともあるんですけど、「子どもにインプロやるのって難しいな」みたいに感じて。だから、子どもにやるときのヒントを得られたらいいなという気持ちもありました。
め)親子向けにもワークショップしたんですね!
か)そうですね。子どもよりお母さんの方がすごく前のめりに楽しんでくれてましたね。
め)ひこはどうしてスポーリンを受けたんですか。
ひ)日本でインプロワークショップを受けると、キースのインプロを参照してる人が多いなという印象で。一方スポーリンのワークは、演劇のトレーニングの中にスポーリンの名前を出さずにたくさん取り入れられてるものがある。
スポーリンのインプロワークショップって、たぶん日本では大野あきひこさんが先駆者だけど、他にないんじゃないかなと思って。私はキースのインプロも興味があるけど、他にもいろんな理念とか実践があるじゃないですか。だから学んでみたいなと思っていて。
今ちょうど私自身もスポーリンのインプロに関心を持って、本を読み直したり自分で取り組んでみたりしていたところだったので、渡りに船と思って。
特にやっぱりZoomで感覚のワークってめっちゃ難しいと思っとって、「どうやるんだ?」と思っとったから、それを体験してみたいってのもあって。スポーリンのワークは一人でできることもたくさんあるんやけど、他の人と共有しつつお互いに感想とかをシェアしながらやれる機会は非常に貴重だなと思って、これは是非参加したいと思って飛び付きました。
普段から教育現場や子育て世代への活動をしている2人。
め)そもそもなんですが、2人はインプロを通して教育活動をしていますよね。具体的にどんなことをされてるんですか?
か)教育というほどのことではないですが、お母さんが元気になればいいなっていうのはいつもあります。私は元々寸劇がすごい好きなんですね。インプロに出会ったのも寸劇がきっかけです。
昔お母さん友達と小さなイベントをやっていて、ちょっとした占いやったりアクセサリー作ったりというようなよくあるやつだったんですけど、そこで「ちょっと寸劇やろうよ」って誘ったんですね。優しいママと怖いママみたいな感じの本当に短いものですが。それぞれ忙しいから練習とかも1回ぐらいでやったんだけど、みんなすごい楽しそうで。怒るママの役とかもすごく楽しそうにしていたんですね。
その時に、寸劇には何かを解放する力があるんだなと思って、もうちょっと寸劇やりたいなと習える場所を探してました。その中でインプロに出会ったんです。
その時にインプロっていうものが世の中にあるんだって分かって、台本なしでできるからこれもいいなとか思って、お母さん達対象にちょっと仲間内で体験したんです。そしたら凄いみんな元気になって、子育てで悩んでたお母さんが、今までは母と子(という関係)だったけど一緒に遊べるようになったと言ってくれたり、ちっちゃい頃になりたかったもの、例えばピンクレディーとかを演じてもらって楽しかったって言ってもらえたり、現実の世界でも(インプロでやったストーリー)と似たようなこと起こったみたいな報告もらったりとか。
そういう演劇の力で(お母さんたちを)元気にできたらいいなーっていうのが(あります)。
め)すごく素敵な話!
か)お母さんが元気だと子どもも嬉しいし、子どもに(インプロを)やらせる人って多いけども、私は「お母さんが楽しもうよ」というところがあって。お茶会だけとかだとなんかつまんないし(笑)
普段の生活でいきなり演劇とか難しいけど、(インプロで)感情とか解放できるし、妻じゃない私っていうのにもなれるしっていう場所は作りたいなって。何回かやってるけど、やっぱり「ハードルが高い」と言われたりしてなかなか人集まらなかったり、試行錯誤は続いています。
め)お母さんが元気ってすごい大事なことですよね。
か)私も子育てで悩んでた時があるんですけど、インプロとの出会いで心が解放されたとこもあって。子育てに活かせてるかというとよくわかんないけど。あとは子どもをワークショップに呼んだりしたこともあったけど、それより私が楽しいからやってるって言う感じですね。
め)ひこはどんな感じ?
ひ)私は大学の教員をしていまして。自分のゼミでひたすらインプロをやってます。それは、大学生が将来子どもたちと教室で遊ぶっていう趣旨もあるし、学生自身が自分の感覚を耕したり、自分の中にあった発想に気づいたり、関係性を築いていくことで何が生まれるかみたいなことを体験したり。
うちは教育学部なので、ゼミ生は教員とか保育士になりたいんです。教員だったり保育士になる上で大切だ、価値があると思うことを学べるといいなと思って、私のゼミはひたすらインプロゲームを遊んでます。
短期大学部のゼミでもひたすらインプロゲームで遊んでますね。彼女達は別に教師とか保育士になりたい学生ばっかりではないんですけど、テーマはコミュニケーションにおいているので、インプロゲームを通してコミュニケーションについてみんなで考えてみようっていう風な趣旨でやってますね。どっちもリフレクションと組み合わせていて、必ず振り返るようにしてます。振り返って何が起こったか、何を体験したか何を感じたかみたいなことをシェアする機会を作ってやってます。
あとは、学校の先生とかお医者さんとか看護師さんとか教育・福祉関係の人向けのワークショップを、何年か前からやってます。それもやっぱり自分の感覚を耕したりすることと、子どもたちと一緒にできる活動を学ぶこと、あとは国語・算数・理科・社会など、教科の学習とどう結びつけるかという3つぐらいが柱なんですけど、日によって違うテーマでやってます。
他にも教育・福祉関係の人がアーティストの人と出会えるといいなと思って、音楽家の人とかと一緒にセッションを。それも月一とかでやってます。
め)いろいろやってるんですね
ひ)あと、自分の娘とはいつもインプロゲームで遊んでます。
スポーリンクラスを受けてみてどうだった?
め)2人の話をたくさん聞いたんですけど、クラスについて聞いていきたくて。実際に受けてみてどうでした?
か)最初のうちは自分自身の中にとまどいがあったんですけど、だんだんと感覚に浸れるようになりました。
前半の文章を読んでた時とかちょっと頭使い過ぎちゃったりしたんですけど、その感覚を使ってシーンを作ったりし始めてから、体感できるようになった。「あ〜こうゆうことか」って。
今までだと頭の中で「次何やろう」みたいな感じで考えてたのが、「何が見えるかな」っていう感覚で見ていくようになれたかな。
それはうつみくんのストテラWSに出てた時も感じて。クラスで『タイプライター』をやったんだけど、前だったら多分頭で全部考えてたと思う。でも、やりながら「次何が見えてくるかな」みたいな感じで進んで行ったら最後まで話を終わらせることができました。みんな苦戦して途中で終わっちゃってたんだけど、私は2回やって2回とも最後まで終わらせることができて、これはスポーリン効果かなって思った。
タイプライター
キースが作ったインプロゲーム。1人がタイプライターに物語を書いていき、別の人がその登場人物として演じていく。途中でストーリーが破綻したら、強制終了することもできる。
め)スポーリンがキースにも役立つことがあったんですね。
か)うん。見えるものとかと感じるものっていうのができるようになってきた感じはします。
ひ)文章を読んでって話で思い出したけど、スポーリンの書いた本の文章を翻訳して紹介してくれて、どんな活動するのか、何の目的があってするのか、大事にしたいことは何かみたいなことを読んでからやったんですね。
スポーリンのインプロを学びたい私としてはそれはとっても嬉しかったです。楽しければいいわけでもなく、単に上手くなればいいわけでもなく、スポーリンのシアターゲームをやりたかった。だから、文章を共有しながら「これを今からこういう課題を共有してみんなでやりますよ」っていう風にやってくれたのは、僕としては嬉しかったし、着実に堅実に出発していく感じは私としてはとても良かったなぁと思っています。
ただシアターゲームは非常に理解が難しかった。
難しいだろうなと思ってたしZoomだということもあるし、何より最初の方は感覚を使ったゲームが中心だったので、理解が難しいというか。1人でやってればできるんですよ。だけどスポーリンのワークは必ず『evaluation:評価』が入るんですね。できたかできてなかったか。それが分からない。「私はできてると思ってます。けど、これはできてるでいいんですか」ていうのが(あった)。
例えばりんごを扱う時に、りんごに触れて、りんごを見て、りんごの色とか重さを感じて、手触りを感じてって。「私は感じてます。でこれは感じてるってことでいいんですか?」って(思う)。共有できているか分からないんですよ。
1人の時は分からないから、それで満足するしかないんですが、ワークショップっていう場でファシリテーターがいて、他の参加者がいて、「見えますか見えてませんか」っていう話をするんですね。その辺りが分からないってことが改めて分かりました。
そういうのが最初の4回目ぐらいまでのファーストインプレッションです。そんな感じで、かよが言ってたように、ちょっとなんか戸惑いがありました。後半にいくに従って演じる機会が増えてくると、だいぶその印象は変わってきましたけど。
僕としては、最初前半の『分からなさ』みたいなはとっても大事だなと。自分の中ではね。インプロ考える上でそこを大事にしたいなと。後半は割と「楽しかった」って。むしろそこは、後々残らないというか。「インプロ楽しいよね」って感じ。
一番楽しかったのは、衣装を変えるやつだね。その時はみんな自分の家にいたから、普段着ないような衣装とか、衣装として使えそうな小道具とかって持ってきて、画面オフにしたまま着替えてから、画面オンにして2人が現れる。そこでなんか変な格好した2人が出てくるわけですよ。この2人はどういう関係かで短いシーンをやってみるみたいな。あれは面白かったですね。
め)かよは印象に残ってるシーンがあったりする?
か)ひことやった海のシーンとか。
ひ)最終回かな。
か)海で見えるものとか、波に入っていってっていう(ワーク)。『次どうなるの』とかだと、「ウミガメきました」とかどんどんやっていこうって感じなんだけど、その時はもう、ただ感覚に浸ってる。何をしますかっていうのはなく、何が見えてくるかとか何が感じられるかっていう感じで。『次どうなるの』とは違う感覚が印象的でした。
次どうなるの
インプロゲーム。「次どうなるの」と1人が質問し、別の人がその次の展開を答える。質問した側が「いいな」と思ったらみんなでその場面を演じてみる。
ひ)とってもなんだろう、贅沢な時間でしたね。
実生活にも活かされた
ひ)それで言うとね、感覚のよく分からなさみたいなものはあったけど、自分の中で腑に落ちてるなと思えたことがあって。
スポーリンのワークの後に、その内の教育関係の何人かで集まって、道徳の教科書で演劇的なワークができないかを探求するみたいなことしたんですね。その時に、「せっかくスポーリンクラス(を受けていたメンバー)だから一回冒頭の場面を感じるところからやってみよう」っていうことになったんですね。そのボキャブラリーが自然に出てくる感じは、やっと自分の中で腑に落ちてる感じはありました。
演劇のワークで「こう感じてみよう」「その架空の世界にいるのを感じてください」って、今まで何かちょっとしっくり来てなかったんです。「想像するのとどう違うの」みたいに思って。でもその時は違いました。実際に扱ったのは、いいお天気の畑(の話)なんですが、そのいい天気の畑を感じるのと感じないのとは大きく違うなという発見がありました。
その一文に注目できる。「お日様が明るい朝です」みたいな感じの、物語と全く関係ない最初の一文があるんですよ。その一文に注目できるのは、スポーリンのワークの影響かなと。そのシーンをちゃんと感じると、何でかぼちゃ君がこうなったのかとか、何でちょうちょはこんな言ってくるのかとか。全部それが「お日様が明るい朝だからだ」って言う。
教科書を書いた人はこんなこと考えてないかもしれないけど、演じる上でお日様が明るいことはとっても大事だってことが分かった。
め)自分の教育活動に影響あったりしたんですか。
ひ)「かぼちゃのつる」っていう教材なんですけど、ゼミの授業で同じように、10人でとりあえずそれぞれ登場人物になりきって、「今めっちゃいいお天気の朝やからまずはそれを感じよう」っていうのを30秒ぐらい。割と長い感じるだけの時間(をとりました)。多分ね、これまで感じるだけの時間って割ととってなかった。自分で勝手に想像するということはやってたけど、みんなでその場にいて、お日様の暖かい朝を感じる時間を取ったのはスポーリンクラスの影響ですね。
なんかそれに自信を持って進める、それに意味があると思えるようになった。
め)なるほど!自分に自信があると、「これやろう」っていうエネルギーになるね。
ひ)そう。エネルギーなく単に指示を出すだけだと「どうせやっても意味ねえな」みたいな感覚に自分がなっちゃう。
め)それをやったゼミ生の子たちはどんな感じだったんですか。
ひ)すごく面白かった!さっきの話だけどかぼちゃがなんで伸びていったのかとか、何でちょうちょが文句言ってるのかとか、なんではちが怒ってるのかとか、良いお天気の朝っていうことからちゃんとその世界を体験してくれてる感じがしました。
だから最初の30秒があるとないとでは大きく違うなっていうことが体験できましたね私は。
め)かよは実生活に影響はありましたか。
か)もともとイメージングとかは好きだったんですね。でも一人の世界だったのが、みんなと遊べたっていうのがありますね。いい大人が本気で。そういう世界があるんだってことは発見でした。安心感って言うか、なんか自分でいいんだみたいな。なんだろうな自己肯定感が上がったみたいな。
め)自己肯定感が上がったんですか?
か)なんというかね。うちの末っ子がもう中学生なんですけど、その子を想像してみるっていうかね。その子の立場をちょっと感じてみるというのはできるようになってるのかな。
娘にしても、今もう高3だけどちょっとボーっとしてたりして、できないことも多かったりしてイライラしちゃう時もあるんですけど。「何でできないの」みたいな。でも「この子だったらどうだろう」みたいな。自分のリズムでやっていきたいのにそこにお母さんがガミガミ言ってきたらが嫌だよねとか。なんか娘の立場を感じてみるみたいなことは、ちょっと落ち着いてからですけどしたりするかも。
め)自分の在り方というか自分の想像の範囲が広がったってことなんですかね。
か)そういう感覚に浸ってみる、みたいな。今までは全部理論的に考えてたんだけど、ただ感じてみたら良いんだなって。問題解決とかじゃなくて。
ひ)思い出したんですが、最終回にかよと響って別の参加者が2人でやったシーンがとっても素敵で。
ログハウスっていうんですか、木の小屋の壁を作ってるんですよ2人で。響が会社に置いてあるコーヒーがまずいっていう話をしてるのね。かよは全然それには返事せずにずっと壁作って。で、時々かよが「ふーん」とかいうんですよ。それがね、もう永遠に見てられるんですよ。めちゃくちゃ美しい夫婦のシーン。僕だけでなくみんな言ってましたけど、ワンダフル。何も問題は解決してない。でもなんかの拍子に響がちょっと作業を止めて下にあるものを取るみたいな、ちょっと今までと違うことをした時に、かよが振り返って「そんなまずいんだ」って。話が盛り上がってたとかじゃなくて、なんかすって訪れた瞬間に「そんなまずいんだ」って。僕らはそれだけで、この夫婦の関係が伝わってくるっていうか。とても美しいシーンでした。
か)そう考えると、キースのインプロの対極ですよね。何も起こらない。
め)でも、そのシーンをお客さんが見ていられるっていうことが不思議ですよね。
ひ)『Preoccupation(没頭)』ってゲームなんですけど、それをやってるとお客さんにとって興味深くなるってスポーリンは言ってて、もうまんま、「はいその通りでした」って。
Preoccupation(没頭)
自分の近くにある物体を相手と一緒に使いながら、同時にそれぞれの考え事に完全に没頭することにフォーカスを置いたエクササイズ。
スポーリンクラスがおすすめの人はいますか?
め)そんなスポーリンクラスですが、おすすめの人とか、こんな教育関係者に役立ちそうってことはありますか?
か)教育関係者はちょっとわかんないけど、やっぱ頭でっかちになっちゃってる人にいいなと思った。私も前は楽しいからやってるって感じだったのが、オンラインでいっぱい出れるようになったら、逆にちょっと苦しくなってきた時があって。「もっと上手くなりたい」みたいな欲が出たり、キースのストテラの本とか読んじゃうと「この通りやりたい」みたいになって逆に動けないことがあって。うつみくんからも「今日かよさんの声聞いてないですよ」って心配されたり。ちょっと苦しくなっていた時にスポーリンのクラス出て救われたなって。
男性性と女性性なのかな。キースって形にしていく、ストーリーにしていくっていう男性性なところががあって。でもスポーリンはその場の感覚に浸ってっていうところが女性性だなと。両方あるとバランス良くなるというか。好みによるかもしれないけど、私は両方の視点を学べたのが楽しかったな。
め)ひこはどう?
ひ)教育関係者にっていうふうに限定するものではないと思うんだけどね。「なんでもいいよ」って難しいんですよね。
め)ほう!
ひ)学生と関わっててもそうだし、思うことが多いのは、そもそも自分は何を嬉しいと思ったり楽しいと思ったり、何に喜びを感じるのかっていうことがないと、その感覚が耕されてないと、「なんでもいいよ」と言われても何していいか分からん。「何でもいいって言われても困ります」ってなる。
そういう意味ではスポーリンが、まず自分の感覚を出発点に置いているのは、一旦そこに立ち戻ってみることは誰にとっても大事なことだなと思っています。
キースは「Give your partner a good time」という「相手にいい時間を与えることが大事」と言ってるんですね。もちろんそれが大事だなと思うし、スポーリンも否定はしないと思う。
一方で、自分の感覚に立ち戻ってみる、そこから出発していくっていう感覚もとっても大事だなと思ってて。だから今のかよのお話と繋がるところでいうと、自分の喜びとか自分の楽しさとかをちゃんと味わえるように感覚を耕しておく。『Feeling Self with Self』っていうワークがあるんですけど、「自分で自分を感じる」出発点はそこから。
Feeling Self with Self
座った状態で、サイドコーチング(ワーク中の声かけ)に沿って自分の身体に触れているものを感じていくエクササイズ。
それから、最後の方でなつみがよく言ってたけど、オーガニックに他の人とも繋がる。舞台装置とも世界とも繋がるみたいに、自分だけじゃなくて繋がっていくっていうことをスポーリンは大事にする。知性と身体と直感も繋がって一緒に働くことが大事。自分と共演者とその世界も繋がって一緒に働くことが大事ってよく言うんだけど、そこから繋がる感覚を持っていけるといいなという風に思ったりしています。
あと教育関係のっていうことで言うと、お手軽なレベルでおすすめなのは衣装ですね。一回アホなことやってみるっていうことも大事だと思うし、ちょっと衣装を変えるだけでこんなに変わるのだっていう。お手軽なのに大きな効果が生まれるっていうことが体験できるといいなと思ったりしてます。
それは子どもの前に立つ時の自分の在り方とか、教室をどうデザインするかとか。ほんの些細なことが大きな影響を子どもたちに与えることってあるんですよね。普段忙しかったり、これが大事って思ってることに時間をかけるから、そういうちょっと変えれば、こんなに変わるっていうところにうまく意識が向かないことが僕も含めてあると思う。だから、衣装を一つでこんなに変わるみたいな体験は割とお手軽だし、楽しいし、価値があるんじゃないかなと思ったりしてます。
講師2人の印象はどうでした?
め)最後に、スポーリンクラスの講師2人について聞きたいです。
か)なつみさんはすごく包んでくれる感じ。でもなんかすごいしっかり見てる。なつみさんに言われると素直に聞ける感じ。もし私が学童の生徒だったら、普段は安心して遊べるんだけど、ピシっと言われると「はい」ってなる。すごく素敵な人だな〜。
りなさんもすごいよく見てる人で。お母さんとお父さんで言ったらお母さんがなつみさんでお父さんがりなさんかな。「あんたできるよ!」って言ってくれる。かっちょいい感じ。
道徳について話し合う会の時にジェンダーの話になって、「インプロって結構型にはまるよね」と。例えば私だったらお母さんとか、なんか当然のように男女2人が結婚みたいになるけど、女性同士がパートナーっていうこともあるわけだしみたいな話も出て。その時に「ちょっとやってみよう」って、なつみさんとりなさんが私の親でっていうシーンが突然始まったことがあった。その2人はとても自然でお似合いだった。
め)ひこはどうだった?
ひ)今回はなつみがメインでりながサポートっていうことも関係していると思うけど、私はなつみはインテリジェントな方だなって印象。と同時に、それをどう伝えるかみたいなことを無茶苦茶上手いなって。めっちゃハッピーに伝える。
知的な人が喋ると暗くなる時あるよね。
め)分かるかもちょっと。
ひ)相手に負い目を与えると言うか。「知らない私ごめんなさい」みたいな。だけどなつみは、あの豊かな知性が土壌にあるんだけど、そこからこう収穫されるものを伝える通路みたいなのが、すごくみずみずしい言葉が出てくるよね。ハッピーになる。それすげーなと思います。めっちゃ敬意を覚えますね。
だから表に現れるワークショップの雰囲気はすごくあの和やかでハッピーな、幸福な感じがするけど、その背景にとってもしっかりした知性の働きっていうか、すごくインテリジェント。ハチャメチャで楽しいとかじゃない。裏打ちする何かがあるように感じていました。
りなはサポートだからっていうのもあると思うんだけど、割とそこを「わーい」って入ってくる。「それはさ、私は違うと思う」「私もそれわかんない!」「思った〜」とか(笑)。ゆうてもなつみはちゃんと説明しようとするじゃないですか、リード役だから。でもそこを「わーい」ってかき回してくれる、エネルギーをもたらしてくれる。
インテリジェントな場ってちょっと落ち着くじゃないですか、エネルギーとしては。それも興味深いから別にダメなわけじゃないけど、そこでもう一度体にエネルギーを呼び覚ましてくれる関わり方、介入の仕方をしてくれるのがりなだなって感じがしてます。
め)凸凹感がまたいいコンビなのかもね。
最後に
め)最後に、これは言いたい!みたいなことはありますか?
か)スポーリンのインプロが知られて欲しいなとは思いますね。日本では『インプロ=キース』みたいなイメージがあるけど、感覚を大切にする方もあるんだなって思って私は楽になったので。
子どもにやるのもとてもいいなと思って。インプロゲームだと『私は木です』とかアイデアを出す形のものが多いんだけど、子どもはアイデアを出すのが難しかったり分からなくなっちゃったりすると思うんですね。その時にスポーリンみたいな感覚に浸るところからできるのはすごくいいなと思います。
私は木です
インプロゲーム。「私は木です」と1人が言い、木になりきってみる。次の人はその木の近くにありそうなものになって入ってくる。
ひ)キースは割と学校教育が嫌い。で、スポーリンは子ども、教育活動に重点を置いて関わってた人なので、そこの違いも面白いなと思っていて。積極的に教育に関わってるから教育に役に立つとか、だからキースは教育には役に立たないとか言いたいわけじゃなくて、それぞれのスタンスの違い、「教育」なるものとの関わり方のスタンスの違いも面白いなと思ったりしてます。
インタビューを終えて
今回は、教育を中心に普段からインプロを通した活動をする2人にお話を聞きました。感情を解放する力やコミュニケーションを学ぶなど、インプロでできることを改めて確認しつつ、さらに頭でっかちにならずに感じることの大切さや、自分の感性を耕すことの意義について考えることができました。子どももできる簡単なものなのか、何年やっても分からないものなのか、そんなシアターゲームについてみんなで探求できる時間だったのだと感じます。
興味を持った方は、ぜひ次回参加してみてください!